2 地獄へいらっしゃい

3/5
前へ
/249ページ
次へ
 十人いた中でも、けっこう平々凡々だったと思うけど。一緒にいたのなんて、その三日間だけだしさ。  だから、なんか不思議だ。  うん。あの土屋がこんなに甘い飴玉を持ってることもすげぇ不思議。あの見た目でこの飴玉ってちょっとギャップがすごいなぁって。舌の上で甘い甘い苺味を転がしながら、頑張れよって言われた時の土屋の声を思い出した。 「……おしっ!」  そしたら、なんか、元気が出てきて、歩く歩幅が大きくなった。  俺は土屋ほど能力が高いわけじゃない。普通すぎる一般人だ。でも、ひとつだけ、ポジティブなところはとても良いと自負してたりする。どんなに周りの人に貧乏クジ引いちゃったねって同情されても、どんなにもったいブリ子が般若顔で待ち受けてても。もうここが俺の新しい職場なんだと腹を括ったら、あとはもう頑張るしかないだろ。ブーたれたって状況は変わらない。なら、頑張ろうぜ。  ほら、土屋にもらった飴玉パワーもあるし。  そう思ったんだけどさ。元気、出たんだけどさ。その元気がごっそりとこそげ取られた感じ。 「業務管理っていう仕事をしています。まずは日々の各工程の進捗チェックから」 「あ、はい」  もったいブリ子、恐るべし。 「あの、あのっ! 持田さん、ここのセクションは、えっと、業務完了日をチェックするんでしたっけ? えっと、着手日、ですか?」  とにかく説明がすっごい早口。いや、早口だなぁこの人っていうのは、昨日思ったんだ。「どうぞ」と「どうか」の説明をしてもらった時に。テンポ数間違えた動画音声みたいに少し高い早口しゃべりだなぁって思ったから。けど、その調子で、業務の流れを説明されて、それメモ取りつつ、画面確認しつつってさ、一つも聞き逃さないってできないよ。  俺、聖徳太子じゃないし。  けど、もったいブリ子のOJTはノンストップなんだ。ホント止まらず説明が進んでいくから、こっちはほぼパニックだよ。仕事の内容を理解する暇もなく、説明聞いてメモとって、メモ取りながら説明聞いて。ほら、何がなんだかわからなくなる。  だから必死に説明を遮って、尋ねるけどさ。 「それ、もうさっき説明したわよ」
/249ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3162人が本棚に入れています
本棚に追加