35 静まれ心臓、荒ぶる恋心

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「ううん。忙しくないけど?」 「そうか? いつも終業間際に仕事を頼むとブリ子がすげぇイヤそうな顔してたぜ?」 「え? 穂高相手に?」  穂高だって。 「? あぁ、なんで俺にだとびっくりするんだよ」 「あー、いやー……あはは」  俺相手ならいつ何時だろうとも渋い表情だけれど、イケメンには特別好待遇だからさ。穂高なんて待遇を松竹梅にするなら松クラス。そんな松クラスがイヤそうな顔されることあるんだなぁっていう驚きと、終業間際のギョウカンってけっこう暇だからさ。  朝は急がしい。夕方までに進んだ仕事を朝一で一緒くたに束ねて業務進行プランと照らし合わせる作業があるから。けど、夕方なんてその進行度をさっと確認するかもなぁって程度だ。どうせ、朝、同じようにプランとの照らし合わせをするから。  だから、逆に暇なんだけど。 「ブリ子、イケメン好きだから」 「……」 「なんでそこで驚愕の表情するんだよ」 「え? だって、うちの営業一課の澤さんがすげぇ優遇されてるぜ?」 「澤さん?」  穂高が思うほどってことはきっと、ものすごくイケメンなのか。それこそ、一昨日一緒に見た、あんまだったーな映画のヒロインの相手役、去年の抱かれたい男第一位みたいに。 「禿げて、お世辞だろうとも、カッコいいです、とは絶対に言えない、言ってたら完全に嘘だってバレる澤先輩」 「っぶ」 「笑うなよ」  想像してたモデル像が今、ガラガラと音を立てて崩れちゃったじゃん。 「でもさ、ってことは、ブリ子のあのしっぶい態度って俺にだけってことじゃんか!」 「あー、まぁ」 「まぁじゃないしっ!」 「いいじゃん。俺はそのほうがいいけど? 男女が密室で八時間一緒って、何か間違えがあったらどうすんだよ。祐真がその気なくたって、向こうが」 「ぎゃああああ、怖い想像すんなっ」  穂高がまた、祐真って言った。 「だから、いいじゃん」 「……穂高」  そして、俺が名前を呼ぶ度に、穂高の表情が綻ぶ。 「どうする? ブリ子がパソ画面の向こうから祐真にウインクしてきたら」 「んぎゃああああ! バカ! こえぇよ!」 「あははは」  ほら、クールでイケメンで営業一課期待の星、エース土屋とは思えない、頬を染めて、たまらなく嬉しそうに笑ってる。

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