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朝、目が覚めると、両の足が動かなくなっている。掛布をめくって、まるで人魚の半身のように横たわるおのれの足を、ユウイは凝視した。酷く白く、酷く繊くて、血の通っていない、無機のもののようだった。
男が来て、支度の間に連れていかれる。顔を拭かれ、白粉をはたかれる。お互いに何処かそらぞらしく黙っていた。
続いて男はユウイの髪を梳きはじめる。その手は微かに顫えているようだったが、櫛の歯が髪に引っかかることはなかった。
ユウイはさほど勁い慾求でない慾求を、発した。
「ハンバーガー食べたい」
「いけません」
思ったとおりの答えが、言下に返ってくる。ユウイは自分がまだ声を出せるのだと云う事実に、安堵した。
支度が済み、男に抱き上げられる。不浄を脣にすることなく百日過ぎた躰は、一茎の雛菊よりも軽いだろう。
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