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このうえなく丁重に、きらきらしい縁飾りのついた茵の上に下される。男は薬草の浮かんだ湯桶から水に浸した布を絞ると、大きな手に相反するような繊細な手つきで、ユウイの顔を拭いた。目くそや抜けた睫毛をも拾って膚を整えると、今度は白粉をはたきだした。
「どうして、」
思わぬ仕打ちに、ユウイは咳き込みながら訊ねた。「どうしてこんなことするの、」白粉など、これまで無縁のものだった。粉は鼻孔にまで入って、粘膜をつんと痛めた。
男は長い指の先に紅を取ると、ユウイの眦にその紅をぼかした。
「あなたは神になったのです」
「──そう」
ユウイはようやく合点がいった。「道理であれこれおかしいと思った」
「はい。まだお成りになったばかりですからね。しかしじきに慣れることでしょう」
淡々と男は云って、ユウイの髪を梳く。なりたての神の髪は、まだ芯の無いやわらかさだった。只の人間であった昨日よりも遥かに長く、引きずるようなのも、以前の黒髪とかけ離れた白銀色をしているのも、神の身となった所為だと考えれば、何ら不思議ではなかった。燦然と輝いて、まるで新しい神を讃えているかのようだった。
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