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「さあ、お勤めのお時間です」
「お勤めって、」
「もちろん、神様のお勤めです」
男はずっしりと衣装の重みを増したユウイを平然と抱き上げると、支度の間を出た。隅々まで清められた長い廊下を、いかにも厳かな足取りで進んでいく。
自分の足で歩けるのだから、わざわざ荷物にしなくても良いのにと、ユウイは羞しくなったが、男はさも当然と云う様子なので、黙っていた。まだ自分は、神の振る舞いの全てを理解していないのだ。
大きな広間に祭壇は拵えられていて、その後ろの格子戸で仕切られた結界の内に、ユウイは鎮座させられた。祭壇には米や酒や農作物が供えられ、寝所同様に多種多様の花々が、馥郁と彩っていた。
世話役の男はユウイの背後に控えるようにして坐った。鉦を叩く音が鳴り響いて、透き徹るように揺曳すると、場の空気が引き締まった。いったんの静寂の後、祝詞だか経だかが始まって、格子の隙間からちらちらと見えるのは、黒衣を着た坊主たちだった。
祝詞だか経だかが終わると、坊主たちは去っていった。これから何が行われるのだろうと待っていると、人影が向こうからやってきて、祭壇の前で手を打ち鳴らし、ごにょごにょと何ごとかを唱える。唱え終わると、一礼をして帰っていき、また新しい人影が来て、ごにょごにょである。
どうも願いや祈りやそうしたものらしいけれども、睡たくてたまらないユウイには上手く聞き取れない。欠伸をすると、男が後ろから咳払いをした。
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