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1日目
空を覆う真っ黒な雨雲と、べっとりと纏わり付くような湿気。
飽和状態になった空が、とうとう耐えきれずに泣きはじめた。
今年もやっぱり……雨だ。
奏風がやって来る日は、決まって雨が降る。毎年のことだった。
垂れ込めていた雲が動いて、少し風が出てきた。
湊音は、軒下に干していた洗濯物を急いで取り込むと、空を仰いだ。
ぽつっぽつっと、あまり冷たくもない大粒の雨が頬にかかる。やがてそれは、瞬く間に激しくなり、湊音は慌てて抱えた洗濯物を庇いながら、縁側から部屋に駆け込んだ。
すっきりとは乾かなかった洗濯物を、さてどうしよう、室内に干し直そうかと思案していると、玄関のベルが鳴る。
( ……奏風だ )
湊音はそれを放り出すと、用意していたバスタオルを引っ掴んで、玄関へと急いだ。
「ただいま。湊音」
開けたドアから、案の定ずぶ濡れになった奏風が、苦笑しながら入ってくる。
湿った雨の匂いと雫を、全身に纏っていた。
「おかえり。奏風」
湊音はにこっと笑って、バスタオルごと、奏風の身体を抱き締めた。雨の匂いに混じって、ほんのり甘い香りが鼻を擽る。
久しぶりの奏風の匂いだ。
「兄さん、また背が縮んだ??」
華奢な身体を抱き締めながら、湊音がそう呟くと、奏風は肩を震わせてふふっと笑った。
「ばか。おまえが伸びたんだろう?」
顔をあげた奏風と目が合って、湊音はくすっと笑いながら、その唇にキスをした。
雨に濡れて体温を奪われた奏風の冷たい唇。
それがせつなくて、触れるだけのキスがつい深くなる。
唇を割り歯列を舐めて、舌を差し込むと、奏風がふぅ……と微かに吐息を漏らす。湊音はいっそう強く抱き締め直して、その甘い蜜を貪るように吸った。
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