1日目

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「兄さん……ずっと、ここにいてよ」 別のことを言おうとしたのに、つい言葉がこぼれ落ちた。奏風の背中がぴくん……っと震える。 「ダメだよ、湊音。約束、だろう?」 奏風の声から熱が消える。湊音は息をのみ、抱き締める腕にぎゅっと力を込めた。 「待って、奏風、違う。そうじゃないから」 「湊音。俺はおまえを」 「違うっ」 湊音は悲鳴のような声をあげて、手で奏風の口を塞ぐと、そのまま腰を前に突き出した。 「んんんぅっ」 くぐもった呻き声と共に、苦しげに身悶える奏風の奥に、熱い楔を突き入れる。 「ごめん、奏風、ごめんね」 うわ言のように謝罪を繰り返しながら、冷えてしまった奏風の身体に自分の熱を注ぎ込むように、湊音は腰を動かし始めた。固く強張りまるで拒絶するようだった奏風の中が、徐々に解れてうねり出す。 静まり返った浴室に、奏風の喘ぎと湊音の荒い息遣いだけが満ちていく。 堪えていた心が、やがて訪れる別れの予感に震えて、つい禁句を口にしてしまった。 それだけは絶対に言わない約束なのだ。 言ってしまえば、危ういところで均衡が保たれている自分と奏風の関係が……瓦解する。 湊音は両手を壁につき、奏風の華奢な身体を自分の全身ですっぽりと覆うようにして、ゆるゆると腰を打ち付けた。 哀しみも不安も怯えも、全部飲み込んで、今だけは奏風を自分だけのものにする。 誰にも何にも邪魔されないように、この身体で心で、奏風を縛りつけ、自分の檻の中に閉じ込めてしまうのだ。 もうずっと、こんな風にして、許されない関係を続けてきた。 自分と奏風の恋は、最初から何処へも行けないと定められた恋だった。 血の繋がった双子だから。男同士だから。 ……それだけじゃない。 幾重にも巻き付けられた禁忌という名の太い鎖が、2人を雁字搦めに縛りつけてきたのだ。 だから忘れよう。今だけは。 せめて……共に過ごせる残りの時だけは、苦しみも哀しみも全て忘れて、ただひたすら睦みあい愛し合う2人でいたい。
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