43人が本棚に入れています
本棚に追加
「兄さん……ずっと、ここにいてよ」
別のことを言おうとしたのに、つい言葉がこぼれ落ちた。奏風の背中がぴくん……っと震える。
「ダメだよ、湊音。約束、だろう?」
奏風の声から熱が消える。湊音は息をのみ、抱き締める腕にぎゅっと力を込めた。
「待って、奏風、違う。そうじゃないから」
「湊音。俺はおまえを」
「違うっ」
湊音は悲鳴のような声をあげて、手で奏風の口を塞ぐと、そのまま腰を前に突き出した。
「んんんぅっ」
くぐもった呻き声と共に、苦しげに身悶える奏風の奥に、熱い楔を突き入れる。
「ごめん、奏風、ごめんね」
うわ言のように謝罪を繰り返しながら、冷えてしまった奏風の身体に自分の熱を注ぎ込むように、湊音は腰を動かし始めた。固く強張りまるで拒絶するようだった奏風の中が、徐々に解れてうねり出す。
静まり返った浴室に、奏風の喘ぎと湊音の荒い息遣いだけが満ちていく。
堪えていた心が、やがて訪れる別れの予感に震えて、つい禁句を口にしてしまった。
それだけは絶対に言わない約束なのだ。
言ってしまえば、危ういところで均衡が保たれている自分と奏風の関係が……瓦解する。
湊音は両手を壁につき、奏風の華奢な身体を自分の全身ですっぽりと覆うようにして、ゆるゆると腰を打ち付けた。
哀しみも不安も怯えも、全部飲み込んで、今だけは奏風を自分だけのものにする。
誰にも何にも邪魔されないように、この身体で心で、奏風を縛りつけ、自分の檻の中に閉じ込めてしまうのだ。
もうずっと、こんな風にして、許されない関係を続けてきた。
自分と奏風の恋は、最初から何処へも行けないと定められた恋だった。
血の繋がった双子だから。男同士だから。
……それだけじゃない。
幾重にも巻き付けられた禁忌という名の太い鎖が、2人を雁字搦めに縛りつけてきたのだ。
だから忘れよう。今だけは。
せめて……共に過ごせる残りの時だけは、苦しみも哀しみも全て忘れて、ただひたすら睦みあい愛し合う2人でいたい。
最初のコメントを投稿しよう!