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2日目
「奏風。少し痩せた?」
「体型は変わってないよ、ずっとな。それよりおまえこそ、痩せたんじゃないか?」
揃いで色違いの浴衣を互いに着付け合う。
夏祭りに行く時は、この浴衣を着ると決めていた。
湊音は奏風のほっそりとした腰に帯を巻きつけながら
「んー。俺も体型はそんな変わってない。でもちょっと背が伸びたかな。よし。いいよ、兄さん、くるっと回ってみて?」
湊音が腰をパンっと叩いて悪戯っぽく笑うと、奏風は嫌そうに顔を顰めて
「おまえね、くるっと回ったりしないよ。女の子じゃないんだから」
湊音は少し離れて、奏風の全身を目を細めて眺めると
「うん。やっぱり奏風はそういう色が似合う。ね、俺はどう?おかしくない?」
にこっと笑ってポーズを決めてみせる湊音に、奏風はしょうがないな~っというように苦笑して
「おまえも似合ってるよ。さ、そろそろ行くか」
「うん」
ここ数日、降ったり止んだりしていた雨はすっかりあがって、今日は久しぶりに雲ひとつない青空が広がっている。
揃いの下駄を手に引っ掛けて、玄関から出た湊音は、空を仰いで眩しさに目を細めた。
「うーん。夏の陽射し復活。快晴じゃん」
「ほんとだ。ちょっと出るのが早かったかな」
湊音は振り返り、奏風の腕をぐいっと掴むと
「夏祭りの会場までは結構あるから、こうして手繋いでゆっくり行けば、ちょうどいい時間だよ」
「ばーか。繋がないよ。人に見られる」
照れて外そうとする奏風の手を、湊音はがっちりと握り締めて
「こんな山奥じゃ誰も見ないよ。いいじゃん。人がいたら外せばいいんだし、ね?」
「ふふ。おまえってほんと、人の言うこときかないよな」
そう言って苦笑する奏風の耳が、少し赤くなっている。文句を言いながらも、そっと繋いだ手を握り返してくれる。
湊音は、奏風の手をひいて、でこぼこの山道を歩き出した。
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