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血の繋がった兄と、心だけでなく身体をも重ね交わることに、戸惑いや躊躇いがなかったわけではない。
だが、あの日。
古い因習と迷信に支配されたあの島で、祖父の才を受け継がなかった兄に、父母たちがどんな仕打ちをしていたのか……偶然にも見せつけられてしまったあの時。
湊音の中で、それまで信じていた世界が、その色彩を変えた。
「湊音、痛いよ」
腕の中の奏風が微かに身を捩る。奏風は、はっとして腕の力をゆるめた。
白昼夢のようなあの日の記憶の残像が、一瞬で霧散していく。
「ごめん」
知らずうちに、奏風の華奢な身体をぎりぎりと締め付けていたらしい。
ほっと身体を弛緩させた奏風が、首だけ動かしてこちらを見た。
「辛いの? 湊音。もう……やめようか?」
「……っ」
その言葉は聞いてはいけない。
奏風にそれを、言わせてはいけない。
湊音は慌てて引き攣りそうな頬を動かし、意識して柔らかい笑みを浮かべた。
「何言ってんの、奏風。辛いわけないだろ」
「湊音、おまえがもし望むなら……」
「それより一緒に風呂、入ろう? 俺、用意してくるから」
湊音は急いで奏風の言葉を遮ると、その頬に唇を押し付けて、腕を解き、くるりと背を向けた。
「湊音、そこ……だめだって」
腕の中の奏風が胸にもじもじと顔を埋めてくる。湊音はいっそう強く、その細い腰を抱き寄せ、指の動きを激しくした。
「ん……っんぅ……」
甘苦しい吐息と共に、奏風の身体が揺れる。
2人で浸かって溢れそうになっていたお湯が、ちゃぽんちゃぽん……と音をたてた。
「だめ? でも気持ちいいでしょ?」
「んんっ……んぁ……っ」
首を振って反論しかけた奏風の口から漏れ出るのは、甘やかな喘ぎだけだ。それは風呂場の中で反響して、湊音の耳を艶やかに擽った。
昨日から時を置かずに愛し続けた奏風のそこは、熟れきって自分の指を難なく飲み込んでいる。こんな激しい交情を続けていたら、精も根も尽き果ててしまう。
分かってはいるが、限られた逢瀬を一時たりとも無駄にしたくない。
指先にこりこりと当たるしこりをわざと避けて、その周りをゆるゆると刺激する。
奏風はもどかしげに、こちらの太ももにお尻を擦りつけてきた。
決定的な愛撫をせずに、こうして焦らし続けていると、奏風はぐずぐずに蕩けて、ひときわ、いい声で鳴くのだ。
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