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「しかしだね。ただ新しく生まれ変わるだけなのだから中身を引き継いでしまう。辛い気持ちを持ったまま生まれ変わりたくはない。当たり前だ。では、一体どうしたら辛い気持
ちを引き継がずに新しく生まれ変わる事が出来るのかね?」
それを考えさせられるのだろうか。そんな事がわかれば人の悩み事なんてこの世から消えるだろう。
「昨日君が死んだ理由って言葉を思い浮かべればいい。おっと、そんな遺書を見直す必要はないのだよ」
黒い影の口調が優しいものに変わったと私は感じた。
「辛い気持ちを失うために君はこれまで何度も死んだのだ。それで喜ぶために何度も生まれ変わった。そうだからって、毎日簡単に辛さから逃げられるからって、辛さを抱えた毎日を過ごす事はない」
笑ってしまう事であったが、どこからか拍手の音が聞こえてきた。
「さあ、こんなところで時間をただ過ごしている事はない。毎日喜んで死んで、毎日喜んで生き返ろうじゃないか。そのために――」
声は消えた。死神の黒い影も消えた。
私は机の上の手紙を粉々に破り、紙片の一つも床にこぼさずにゴミ箱の中に捨てた。
この手紙を書いた自分はこれで死んだのだ。私が死んだ理由が見つかったと思ったら、なぜか次に心がウキウキしてきた
死ぬ理由もあれば生きる理由もある。生きている間は楽しい事の一つでも多く見つけてやろうかな。
さっきまで泣いてたい子が、なーんて、単純な心変わりなのかしら。でも、気分の良い感じは確かにあった。
たぶん――ではあるけど、そうして自然といつかこの世と別れ、違う世界の違う人に生まれ変わるんだろう。
自分から無になろうとしない限りは、ね。
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