勇者を譲りました。

3/22
3457人が本棚に入れています
本棚に追加
/322ページ
 僕に見向きもしない状況だったので丁度動き易く、僕は彼女にそっと近づく。 「えっと、もしも、資質が無い人が薬を飲んだらどうなりますか?」  小声で僕は聞くと、 「異世界人なら、誰でも効果はあるのですが、資質が薄いと効果も薄くなるのです。」  僕は、最悪死ぬ可能性が無くなったので、安心する。 「じゃあ、勇者は王様が決めた彼って事で、僕を元に戻してくれますか?」 「えっと・・・あの・・・」  僕はもう一つの最悪の可能性が頭に浮かぶ。 「もしかして、戻せないのですか?」  黙って頷く、彼女。 「直ぐに戻せないとか、そういうのじゃなくて?」  もう一度、頷く彼女。 「まじかぁ・・・」  僕は自分の人生プランが崩れた事に嘆いてしまった。 「おい、そこの少年。お前は何をしている。」  王様が僕に気付く。 「勇者はそちらの方に決まったので、僕達を呼び出した彼女に、元に戻して貰おうかと、相談していたところですが・・・戻れないって今聞きました。」 「ああ、そうだな。もうお前には用が無くなったが、このまま、外に出すのは俺としても気が引ける。」  王様は少し無言になり、なにかを考えているようだった。 「そうだな。金貨200枚渡そうか。それだけあれば平民なら一生暮らせる以上の額だ。文句はないだろう。」  僕に選ぶ権利なんてなく、破格の好条件なのもだいたい理解した。  ここは機嫌を損ねないように、丁寧に感謝するところ。  僕は中世アニメでよく見る、片膝をついて頭を下げる動作をしながら、 「ありがとうございます。過大な慈悲に感謝します。」 「ああ、少し待っていろ。今、用意させる。」  隣の秘書らしい女性が部屋を出ると、間の空いた空気が漂う。  そして僕は、姿勢をどのタイミングで戻せばいいのか、悩んでいた。
/322ページ

最初のコメントを投稿しよう!