158人が本棚に入れています
本棚に追加
==========
3か月前。
新体操の大会の打ち上げで、私達のチームは先生と小料理屋さんに行った。
先生が、ここの料理はすごく美味しいし、大皿料理をたくさん頼んであるからどんどん食べろって。
その時はみんな、なんで小料理屋~? なんて笑ったんだけど、本当に美味しかったからいっぱい食べたんだよね。
大人数だったから、2階のお座敷席でたくさんのテーブルを使わせてもらった。
ふと、お座敷の窓際に座っている男の子が目に入る。
彼はテーブルに片肘をついて、窓の外を眺めてた。
私も自分が座っている場所から外を覗いたけど、そこには特に何もなくて。
でも、彼は何かを見てた。
綺麗な横顔。
切れ長の目に、たまに揺れ動く長いまつ毛。
暗い湖の底を思わせる、青にも見えるような黒髪。
頬を支える、大きな手。
私は彼の視線の先に、なぜか静かな海があるような気がした。
まっすぐ続く海の地平線を見てるような、そんな印象。
そして、その黒髪の彼を。
なんて儚げで、守ってあげたくなるような人なんだ、と意味もなく思った。
触れれば、壊れてしまうんじゃないかと…。
――その時、ふいに部員に話しかけられ我に返った。
「なあにぃ~しゅう、ああいう男子が好みなの? さっきからジッと見て」
横に座っていたチームメイトに小突かれ、茶化される。
「ちょっ!? ち、ちがうよ!」
「まったく、しゅうは告られても断ってばっかりなのに。ああいうのが好きなんだ~」
「何言ってんのよぉ! 違うってば!」
「へぇ~、あの男子? ここの店の子なのかな? なんかミステリアスで私も結構好きかも」
「私も意外とタイプだわ~。声かけてみる?」
「やめなってー」
「ふーん、私はなんか不愛想な感じで苦手~……」
「あっ! 立ち上がったよ」
私達の会話が聞こえたのだろうか。
黒髪の彼はスッと立ち上がり、従業員専用のドアの向こうに行ってしまった。
「あーあ、行っちゃった。バイトくんかな?」
「まぁまぁ、もういいじゃん」
私は苦笑いでみんなを落ち着かせ、また料理に箸をつけた。
最初のコメントを投稿しよう!