彼に願いを

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うそ。 ヤバい。 優しい。 ドキドキが、止まらない。 柚木くんは問題集をめくり、ノートに色々書き込んでいる。 「…私、愛南高校の3年なんですけど、柚木くんは?」 「………さっこうの3年」 さっこうとは桜ヶ(さくらがおか)高校のこと。 この辺ではトップクラスの進学校だ。 私の高校もそうレベルが低いわけじゃないけど、桜ヶ(さっこう)高校ほど学力が高いわけではない。 「あ、同い年なんですね! よかった! しかも、柚木くんて頭いいんだ! すごいねっ! ………じゃなくて。 …すごい、ですね…」 テンションの低い柚木くんに合わせ、なんとなく敬語に戻した。 「いや、いいよ。タメ口で」 目線はノートに向いたままだったけど、彼の一言がなんだか嬉しい。 「えっとね、私も今日は勉強しに来たの。……私、交通事故にあって、1週間も目が覚めなかったから、勉強遅れてて。友達が昨日、ノート持って来てくれたんだ」 「…そう」 「昨日病室でノート見てたんだけど、わからないとこがあって。よかったら、柚木くん教えてくれない……かな?」 不意に、柚木くんが顔を上げる。 しまった。 教えてなんて、調子に乗りすぎたかな。 彼の、私を見つめる目が、相変わらず吸い込まれてしまいそうに暗くて。 心臓がまたトクンと跳ねる。
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