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私が黙ってしばらくじっとしていたら、急に看護師さんがプッと吹き出した。
なんだろう、ちょっと慌てる。
「あ、ごめん、ごめんね! しゅうちゃんは事故のあと朦朧としてたから、記憶にないかもしれないんだけど……」
看護師さんは笑って続ける。
「しゅうちゃんのお母さん、しゅうちゃんが目を覚ました時、ナースステーションまで英語で叫びながら走ってきたのよ」
「あ、覚えてます………」
確かに、私もお母さんがすごい大声で叫んでたのを聞いた。
恥ずかしい……。
私のお母さんは、金髪碧眼の、生粋のアメリカ人だ。
普段は日本語で話しているけれど、びっくりしたり悲しんだり、要は動揺すると英語が出る。
ちなみにお父さんは日本人なので、私はハーフ。
私の髪と目の色は、お母さんゆずり。
「Doctor!! Doctor!! My daughter came to her senses!! (先生!! 娘が目を覚ましたわ!!)」
静かな病院の廊下。
……のハズなのに、その日はお母さんの叫び声だけが大きく響いていた。
今考えると、母よ、ナースコールがあるだろうと冷静に思う。
「美人で明るくて、素敵なお母さんね。しゅうちゃんもお母さんに似てかなりの美人だし、お父さんは自慢だろうね」
そう言いながら、看護師さんは病室を出ていった。
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検査が終わり、お昼が過ぎた。
柔らかくて物足りない昼食を食べ、ようやく点滴も外してもらえた。
思いっきり伸びをする。
「あいたたたっ…」
やっぱり、またあちこち痛んだ。
ベッドに座って右脚の包帯を見て、不安になる。
我慢できるけど、結構な痛さ。
体が動くようになればなるほど痛い。
その時、コンコンと誰かがドアをノックする音が聞こえた。
「しゅう~」
お母さんが紙袋を両手に、部屋に入ってきた。
「着替え、沢山持って来たわよー」
「ありがとう」
「調子はどう?」
「うん、気分はいいよ。でもね……」
「どうしたの?」
「右脚が、結構痛くて」
「あ、そうだと思うわ。結構な怪我だったのよ」
「大丈夫かな。新体操……」
私は幼稚園の頃から新体操をしている。
大学も、体育大学に進むって決めてる。
もうすぐ大会だってあるし、ちゃんと間に合うのかな……。
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