159人が本棚に入れています
本棚に追加
その中には、入り口まで見送っている入院患者もいるようで。
あそこにいる男の子も、そうなのだろう。
私とそんなに年が変わらなそうな2人組。
少し明るい茶髪の男子が、入院患者と思われる黒髪の男子の背中をバシンと叩く。
そして、片手をスッと上げて去っていった。
黒髪男子は背中へ手を伸ばし、さすりながら院内に入っていく。
私がいずれあんな風に歩けても、大好きな新体操はもう、できない。
そう思うと、今度は涙の代わりにため息が出た。
明日が来ても、きっと楽しくない。
==========
次の日。
看護師さんが私を車いすに乗せ、外に連れていってくれた。
今の私には、愛想笑いすることさえ辛い。
「疲れた」ということを理由に、病室に帰してもらった。
看護師さんが、私の気分転換のために連れ出してくれたことはわかってる。
でも、私はまだそんな気持ちになれない。
なんとなく。
ペンを手に取り、お母さんが持ってきてくれたスケッチブックに、窓から見える海の景色を描き始めた。
けれど、途中で手が止まる。
グルグルグシャグシャ殴り描きして、スケッチブックを閉じた。
「……コーラ」
こんな時、大人だったらお酒でも飲むんだろうか。
だけど私は今、炭酸ジュースが飲みたい。
そう思いながら車いすに乗り、廊下に出た。
腕は痛いけど、打撲しただけだ。進める。
“カフェスペース”
看護師さんが作ったのであろう、可愛い文字で書かれた貼り紙を見つけた。
ここは、面会に来た人や患者が自由に使っていいスペース。
自動販売機と貸し出し用の雑誌や絵本が置いてあり、長テーブルが3つ繋げられた物が中央に2列。
壁際には、ふんわりした1人掛け用のソファーが3つ。
カフェスペースには、雑誌を読んだりお菓子を食べたりしている人がいた。
私は自動販売機の前まで行き、ポケットから小銭を取り出す。
お金を入れようと手を伸ばした。
けれど、手を滑らせて100円玉を落としてしまった。
転がっていく100円玉。
ツイてない…。
拾おうと、車いすを進めた時だった。
最初のコメントを投稿しよう!