海と彼と私

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コーラを買って病室に戻ると、窓が開けっぱなしだったことに気づく。 閉じていたスケッチブックが風で開き、鉛筆が床に転がっていた。 端に寄せていたはずの白いカーテンが、風でぶわりと浮き上がっている。 鉛筆を拾ったら、私の髪も強風でぐしゃぐしゃになってしまった。 私の髪は腰まであるロングヘアで、1本1本が細くて柔らかい。 だから、すぐ絡んでしまうのだ。 「…もうっ!」 手ぐしで適当に髪を束ね、ゴムで結んだ。 なんとか窓を閉め、とりあえずホッとする。 車いすからベッドへ、右脚をかばいながらズルズル移動する。 やっとの思いでベッドに座り、コーラを開けて飲んだ。 久しぶりの、炭酸ジュース。 冷たくてシュワッとしてて、心地いい。体がすっきりした気がする。 目を落とすと、風で開いたスケッチブック。 私がグシャグシャにした海がそこにあった。 地平線は途中で切れている。 ふと、カーテンの隙間から少しだけ見える海を見た。 私が描いた海とは違って、穏やかだ。風が強いからか、波が白く見える。 真っ青な海と白い雲の境目が、ここからは見えない長い地平線を想像させた。 ぼんやりと。 海を見ていて、ふいにちらついた記憶。 「………あっ」 ――――思い出した。 そうだ。 思い出した。 あの時の彼だ。 100円玉を拾ってくれた黒髪の男子は、“あの時”の彼だ。
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