158人が本棚に入れています
本棚に追加
コーラを買って病室に戻ると、窓が開けっぱなしだったことに気づく。
閉じていたスケッチブックが風で開き、鉛筆が床に転がっていた。
端に寄せていたはずの白いカーテンが、風でぶわりと浮き上がっている。
鉛筆を拾ったら、私の髪も強風でぐしゃぐしゃになってしまった。
私の髪は腰まであるロングヘアで、1本1本が細くて柔らかい。
だから、すぐ絡んでしまうのだ。
「…もうっ!」
手ぐしで適当に髪を束ね、ゴムで結んだ。
なんとか窓を閉め、とりあえずホッとする。
車いすからベッドへ、右脚をかばいながらズルズル移動する。
やっとの思いでベッドに座り、コーラを開けて飲んだ。
久しぶりの、炭酸ジュース。
冷たくてシュワッとしてて、心地いい。体がすっきりした気がする。
目を落とすと、風で開いたスケッチブック。
私がグシャグシャにした海がそこにあった。
地平線は途中で切れている。
ふと、カーテンの隙間から少しだけ見える海を見た。
私が描いた海とは違って、穏やかだ。風が強いからか、波が白く見える。
真っ青な海と白い雲の境目が、ここからは見えない長い地平線を想像させた。
ぼんやりと。
海を見ていて、ふいにちらついた記憶。
「………あっ」
――――思い出した。
そうだ。
思い出した。
あの時の彼だ。
100円玉を拾ってくれた黒髪の男子は、“あの時”の彼だ。
最初のコメントを投稿しよう!