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30メートル先に引っ越してきた綿谷家の長男溌春くん。
緑色の屋根の家に住む黄倉家の末っ子、茶桜ちゃん。
同い年のあたしたちは、同じ幼稚園に通い、同じ小学校に入学した。
棚に並べられたアルバムは、溌春くんが引っ越してきてから、一緒の写真に写ることが多くなった。
そしてそれは―――。
「ハル!」
あたしの家から30メートル先にある桃色の屋根の家、綿谷家。
その家は十数年前に建てられたもので、引っ越してきた家の長男が幼馴染になったのは、もう遠い昔の出来事である。
桃色の屋根の家に入り込んだあたしは、長男の部屋のドアをドンドンと叩いた。
しかし、いくら叩いても出てこない。
時刻は23時。
こんな真夜中に突然入ってきた近所の子どもに笑みを向けてくれるのは、狭い地域といえど、綿谷家ぐらいである。
「ハル!!」
とうとう手に疲れを抱いたあたしは、足を使った。
ガンッと鈍い音がしてから数十秒後、開かずの扉がカチャリと鍵を外す。
「何、タオ。俺ね、今寝ようとしていたんだけど―――」
たぶん、もう寝ていたんだと思う。
目が半分閉じている。
しかしあたしは、構わず綿谷家の長男に抱き着いた。
突然の突進に、お尻から倒れこむ溌春。
「聞いてよ、ハル!」
「分かったからちょっと待ってて」
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