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 その少年に会ったのは、初夏、暑さがいや増す日のことだった。  梅雨の終了宣言が一斉にニュースを騒がせた次の日。前日まで降っていた雨のせいか、湿度が高く、空気がべたついていた。あまりの暑さに、袖付きの服は早々に諦め、秋月まりあはノースリーブのトップスを選んでいる。  今年入学を果たした女子短大までは、お気に入りの自転車で通学をしている。となると、ボトムはもちろんパンツスタイル一択だ。ウエストの辺りをリボンで結ぶ、サッカーブルーが目に爽やかなパンツは今年買った新作で、お気に入りの一着でもある。  肩甲骨まで伸びた髪はアッシュに染め、それを横に流して同じくブルーのシュシュで結ぶ。メイクは流行りを踏まえ、大きさが自慢の目はアイラインを念入りに。マスカラを重ね付けし終わると、鏡に向かって微笑んだ。 「今日もまりあちゃん、可愛い!」  そう自分に言い聞かせて、支度を終わらせる。  保育士という子供の頃からの夢を叶えるために選んだ女子短大は、とある地方都市の郊外にあった。彼女にとっては地元だったから、進学先はすぐに決定したというわけだ。     
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