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「お夕(ゆう)、そなたはなにゆえここへ連れてこられたか」
少年は目を丸くして社の中を見回していたが、私の声にまたはっとしたようだった。
「え、ええと……水神さまの嫁になるようにと言われまして……」
私は天を仰いだ。今まで生贄にと捧げられてきたのは少女だったらしい。今までなんの音沙汰もなかった神が「生贄はいらぬ」と言ってきた。何が気に入らなかったのか。もしかして神が求めていたのは少女ではなく少年だったのではないか、という村人たちの思考が一気に飛び込んできた。
「そうか……。して、そなたはふもとの村の者か?」
「……いえ……ええと……」
答えづらそうな様子に境遇が察せられる。思考を辿れば、少年は元々別のところに住んでいた。しかしなんらかの理由で孤児になったが、村に親戚がいたので昨年引き取られた。けれど村での待遇はいいとはいえなかったようである。親戚には子が2人おり、少年はその小間使いのような扱いだったようだ。だから生贄としてここに来ることに恐れはあったが村から離れられて嬉しいという感情の方が強く私には感じられた。
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