雨の日

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「固まりそうですね。」 詩人の彼は慧介に言う。それから、 「僕も、その“メランコリイの葡萄酒”という題名(タイトル)で、いい詩が書けそうですよ。」 と言った。 「“メランコリイの葡萄酒”は君にあげるよ。僕にはどうも、これ以上は書けそうにないんでね。」 と、慧介は答えた。 「それはありがたいです。でも、いいのですか? “メランコリイの葡萄酒”は、年代物ではないのですか?」 詩人の彼がそう訊ねると、 「一日寝かしただけだよ。誰かさんがメランコリイだったんでね。」 と、悠一が答える。 「メランコリイって、葡萄ジュウスか葡萄酒みたいだねって言ったのは私だよ。」 彩枝がそう言う。 「彩枝さんのでしたか・・・。流石にお返ししますよ。」 申し訳なさそうな様子で詩人の彼が言う。 「ううん。君にあげるよ。いい詩が書けそうなんでしょ?」 「ええ、それではありがたく頂戴致します。」 彩枝がそう言うと、詩人の彼は言葉を返した。 「いい葡萄酒が手に入ったね。」 雪愛が詩人の彼に言う。 「ええ、本当にその通りです。」 と、彼は言葉を返した。そして、 「“メランコリイの葡萄酒”はどれくらい寝かせるといいですかね?」 と、「キウメガ」のメンバアに訊く。 「寝かせるのかい?」 慧介が詩人の彼に訊ねると、 「寝かせるのかもしれない。」 と、彼はそう答える。慧介は(しばら)く考えると、 「雨の日のように、ゆっくり待つんだよ。」 と、一言だけそう言った。
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