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ダイニングのテエブルでスケジュウル手帳や書類などを広げて、これからの「キウメガ」の予定を確認している、長めの綺麗な髪の、慧介や彩枝のものより黒髪に近い茶髪の女性が、律出路雪愛という、ドラムスを担当する女性だ。慧介とは同じ高校で、彼女は慧介よりひとつ年下である。高校軽音楽部の後輩でもある。
「キウメガ」のメンバアの四人は同じ家に住んでいる。都会近くのベッドタウンの平屋一戸建ての家だ。風呂はトイレとは別にあるが、LDKの部屋以外には、楽器や機材を置いている大きな部屋がひとつと、小さな部屋がふたつばかりあるだけだ。そのふたつの部屋を慧介と悠一、彩枝と雪愛の二人で共有している。
メンバアは家に帰宅すると、みんなとりあえずLDKの部屋に入り、ひとときを一緒に過ごすのが自然とお決まりになっている。レコオディングを終えた、この日の夜もそうして過ごしている。各々の行動をするメンバアの耳に雨の音が聴こえてくる。雨は時に弱まったかと思えば、いきなり強く降りだしたり、ある程度強く降ると弱くなったりした。だが、雨が弱くなっても止むことは決してなかった。雨は常に降り続いている。
「雨って、音楽みたいだよね。」
「言われてみるとそうだね。」
晩御飯の支度をしている彩枝が言うと、後ろのテエブルにいる雪愛が言葉を返す。
「強弱とか緩急の感じかな?」
二人の言葉を聞いた悠一がそう訊ねた。
「そうそう。」
彩枝が悠一に言葉を返すと、言葉のやりとりを聞いていた慧介が、
「雨と音楽ね・・・。」
と、ぽつり言う。それを聞いて彩枝は、
「あれ? 慧介はそう思わない?」
と、彼に訊ねた。
「いや、それはそう思うけど。」
慧介は少しばかり怪訝そうに言う。
「最近雨ばっかりで憂鬱なんだろう?」
怪訝そうな慧介を見て悠一が言う。
「メランコリイなんだね。ねえ、メランコリイって飲み物っぽくない?」
怪訝そうな慧介を宥めるように、彩枝が言う。
「メランコリイね・・・。憂鬱を言い換えただけじゃん。」
慧介は相変わらず怪訝そうに言う。
「今日の慧介は随分、現実主義者なんだね。」
悠一は彼にそう言いながら、楽曲の執筆を軽快に進めてゆく。慧介は自分のギタアのメンテナンスを終えて、バンドで歌うための詩を書こうとノオトとペンを取り出したが、執筆はどうも遅々として進まなかった。
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