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メンバアの中で最年長で普段はクウルな悠一でさえ、コオヒイミルのレバアをやたらと回したがるのである。メンバアがかわりばんこにレバアを回すと、コオヒイ豆はすっかり挽かれて粉になった。さて、ここからメンバアは二通りに分かれる。ドリップポットでコオヒイを淹れる側と、サイフォンでコオヒイを淹れる側に。慧介と雪愛が前者で、悠一と彩枝が後者である。とはいえ、彼らは特に自分たちの主張を押し出して争うことはなく、それぞれのコオヒイを淹れていくのを楽しむ。時々向こうのコオヒイを淹れている様子を窺いながら。
「コオヒイを淹れているのって、雨の降るみたいだね。」
彩枝がふと、そう言う。
「分かるー。」
「確かに、滴が落ちる様子とか。」
雪愛と悠一が言葉を返す。そして彩枝は続けて、
「そう思うと、雨っていいものでしょ?」
と、慧介に訊ねる。
「まあ、少しはね。」
彼はそう彩枝に答えた。
「ひとつ、またひとつ、滴が落ちてゆくんだよ。」
「素敵なひとときね。」
彩枝と雪愛が言う。
「滴が音符だとしたら、オルゴオルだろうか?」
悠一が真面目な顔をして言う。
「私はクラシックだと思う。」
雪愛が続けて言う。二人の言葉を聞いて、慧介は何か考え込んでいるようだった。
「どうしたの?」
彩枝が慧介に訊ねる。
「いや、僕は「キウメガ」の次の曲かなって思う。」
「・・・!」
慧介がそう言うと、三人は少し驚いた。
「君がそんなことを思ってたとは、意外だね。」
「意外って・・・、まあ、意外・・・か。」
悠一に言われた慧介はそう言葉を返した。
「何か、素敵な詩でも浮かんだ?」
彩枝が慧介に訊ねる。
「うん。雨で待つのも悪くないかなって。」
彼はそう答える。今までの、この天気のように怪訝そうな様子とは一転して、彼は少し晴れやかになっていた。その様子を見た三人も少し晴れやかになった。四人はこの後、コオヒイをゆったりと楽しんだ。コオヒイの良い香りと味わいは、雨の日の中にも素敵なひとときを与えてくれる。幸せなひとときだ。
コオヒイを楽しんでから暫くして、この家にひとりの客人が来た。この客人の男性は「キウメガ」のメンバアの友人で、しがない詩人である。彼は、自分と同じく文学好きである慧介や彩枝と文学の話をするのを楽しみにしている。詩人故に、バンドの曲のために詩を書いている慧介とは、特に気が合うようだ。もちろん悠一や雪愛とも話をする。
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