無限珈琲

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 今日はお前ら人間にどうしても言いたいことがある。だからこうしてわざわざこちらから出向いてやった。感謝しろ。  これから儂が言うことを信じるかどうかはお前次第だが。  そうだな。もし信じるというのであれば。  ジュース1本くらいは、ご馳走してやろう。  儂らは自販機に住んでおる。  ただしどの自販機にもいるわけではない。全国500万台あるうちの限られた29万台。「当たり付き自動販売機」の中が、儂ら神々の住処である。  なぜ自販機なのか。そんなことは今さら言うまでもない。  夏は涼しく冬は暖かい。一年中温度や湿度が一定に保たれており、適度に薄暗く静かである。姿を隠すにはこの上ない条件が揃っている。  よく宝くじ売場などと勘違いするバカがいる。そんなものは儂らからすれば心外である。儂らは金が嫌いなのだ。「年末ジャンボ」だか「グリーンジャンボ」だか知らないが、勝手に広告塔にまでされてしまい、甚だ良い迷惑である。毎年無駄に名前を呼ばれる回数が増えて、持病の頭痛が日に日に酷くなるではないか。祈られるのは三が日だけで十分である。  ちなみに、神社にも儂はほとんどおらん。あんな広くて落ち着かん所に、ずっといられるわけがない。ちょっと頭を捻れば分かるであろう。あんな空調も何もないところで、一年中過ごせると思うなよ。居心地悪うてかなわんわ。何よりあそこでは腹が空く。  儂らは人の幸せをもらって生きておる。人が嬉しいと思ったり、喜んだりした瞬間に出るふわっとした何やら「あったかいやつ」を喰らって生きておる。近頃、神社には金を持ってくるやつはたくさんおっても、そういうあったかいやつを持ってくる人間はほとんどおらんようになった。  よく、「神社には願い事をしてはならん。報告をしろ」というだろう。そういうことだ。お前らの願いなんて儂は聞きとうないし、賽銭だって欲しくはない。それよりも嬉しかったことを報告しろ。楽しかった思い出を儂に共有しろ。金で願いを叶えてもらおうなんて、そもそもが取引として成立しておらんのだ。以後気をつけるが良い。
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