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第一章 死後の世界
全身に走っていた激痛から、解放されるにつれて、ふわりと宙に浮いている感覚になった。
まるで、あの日に見た、銀杏の葉の様に。
優しくて、心地良く…けれど冷たさを感じる青白い光に包まれてーーいつから私は、瞳を閉じているのだろうか。
トントン…
誰かが、私の肩を叩いている。
『ーー木未歩さん…桜木未歩さん』
誰かが、私の名前を読んでいる。
未歩はゆっくりと、鉄扉のように堅固な瞼を開いた。
薄白い蛍光灯の光が、目の奥にチラつき、思わず目を細めてしまう。
「桜木さん!もう…次、桜木さんの番ですよ。後が詰まっているので、早く起きて三番の窓口に行ってください」
三番窓口…何の事…?
未歩の前には、スーツ姿の中年男性が、マニュアルに載っていそうな、笑顔を作って立っていた。
左右を見渡すと、役所を思わせるカウンターが連なり、天井から窓口の番号が吊るされている。恐らく先程「三番」と言っていたのは、この事なのだろう。
三番のカウンターには、腕組みをして、身体を揺すりながら、未歩を睨み付けている、赤縁の眼鏡を掛けた女性がいた。
「ほら、桜木さん!ボサッとしていないで早く!あの人せっかちなんだから、怒らせない方がいいよ」
「は、はい…」
未歩は、事態が呑み込めないまま、取り敢えず三番窓口へ行った。
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