1章 マライカ ③ 美しき日本

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そんなことがあり、僕は偶然杏子と出合った。大学1年の夏休み前の講義日。杏子が18歳。僕が19歳。その日から杏子の就職まではいつも一緒だった。互いの部屋に往き来してすごしていたのだ。就職してからはなかなか会えず、毎日の繰り返される忙しさに呑まれていた。ただ唯一土曜の昼下がりだけが、杏子の平常心が僕を包み込んでくれていた。 そう、あの日も…… 「映画、行こうか」    僕たちは土曜の夕方は映画を見て過ごすことが多かった。 「でもまだ早いかな?」  僕は携帯の時計をチラリ見た。 「じゃ、カフェ行く?」  杏子は待ってましたと言わんばかり。 「またカフェ?」 「そうカフェ」  杏子が笑う。
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