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1章 マライカ ④ 穏やかな生活(杏子)
賑やかな春の匂いも、まぶしい夏の色も、いつもぼんやりとは感じていたこの8ヶ月。私は修と一緒に探したこの家で1人ぼってちの8ヶ月を過ごしていた。ぼんやりな毎日は、あっという間にこの町を色ずく季節に変えていた。
修がこの家を出て行ったのは今年の1月。とっても寒い日の夕方だった。
「そんなに言うなら杏子の好きにしろよ!.......俺の荷物、邪魔なら捨ててくれ」
最後の捨て台詞が、本物に聞こえた......
その日修は、スーツケースを1つだけ持ち家から出ていった。
バタン!
玄関の扉が閉まる音が聞こえた。その外界と遮断された冷たい音はリビングにも伝わる。同時にひたひたひたと床伝いに静寂が忍び寄る。静寂という名の透明なアメーバが、床を舐めながら覆いつくし、そしてリビングの床とドアの隙間からノックもせずに一気に流れ込む。この静寂はとても冷たく悲しい。私は1人リビングのソファでそれを感じてた。
それからもう1つ。
ようやく修の顔を見ずにいられる。ようやく喧嘩せずにいられる。ようやく穏やかな生活が送れる。
私の脳裏でそうささやき続ける魔物も、見つけた。
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