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鈍色の雲
学校に屋上があるのは知っていた。
けれども、そこに来るのは初めてだった。
見上げた空は、曇天で雲は厚くかかっていて、今にも降り出しそうな空だったが、それでものろのろと進んだ。
視線を移動して確認した限り、屋上には誰もいなかった。
フェンスに寄りかかるようにして座って、持参した弁当箱を開けた。
教室には居たくなかった。
あの後、永田から返事はなかった。
だけど、弁解すらないのであれば“そういう”事なんだろう。
本人から聞いた訳では無いが、仲が良さそうに二人で昼休みに教室で昼ご飯を食べていた。
さすがに居た堪れなくなって、教室を出た。
ただひたすら人のいない方へ、いない方へと歩いて、結局屋上についた。
一人で下を向いて、もそもそと弁当を食べているとドサリと横に誰かが座った。
思わずそこを見ると目に入ったのは今日の空の様な鈍色だった。
それが髪の毛の色だと気が付くのに数秒かかった。
「お前、辛気臭せえ顔してんな。」
まるで、前から友人関係であるかの様な口調でその男は言った。
だが、こんな友人はいない。
話すのも今日が初めてだ。
だがその男の名前は知っていた。
確か、河澄という筈のその名前を、同学年で知らないものはいないだろう。
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