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雨上がりは天色の
河澄は俺の事を結局あの後も馬鹿にはしなかった。
永田の名前を隠して、ポツリポツリと断片的にしか話さない俺の話をただ静かに聞いて、それから一言だけ「そりゃあ、お前、怒れよ。」とだけ返した。
それっきり、元彼氏がどんな人間かとか、俺がゲイかどうかとかそんな事は何も聞かれなかった。
最後に河澄は制服のズボンのポケットから飴を一つ俺に渡した。
ソーダ味の雨は、秋の晴天みたいな色で、煙草吸うやつが飴とかダセエって少しだけ思ったけれど、それでもその綺麗な色の飴を見ただけで河澄の優しさみたいなものが伝わってきた気がして嬉しかった。
河澄が本当にいいやつかどうかは知らない。
永田だって、周りの人間の評判は良かったけど俺とは結局全然ダメだった。本当はいいやつだからとかそんな事はもう考えすぎて嫌になってしまった。
河澄が本当はいいやつなのか、単に後で俺みたいな馬鹿な人間の秘密を暴露して笑いものにしたいのかは知らない。だけどどっちでもいいと思えた。
少なくとも、馬鹿みたいに泣く俺に付き合ってくれたことも、この飴をくれたことも事実だから。
飴を口に入れると、甘くて少しだけ酸っぱくて、雨上がりの様な味がした。
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