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蒼穹にもとどく
「今は誰もいないから貸切だよ。」
受付のおばちゃんが、河澄に慣れた口調で言う。
河澄と博物館はなんかイメージが結びつかなかった。
「こっちだ。」
勝手に入館料を払ってしまった河澄が順路の矢印と全く違う右側通路を指差しながら歩き始める。
慌てて後を追いかける。
通路の先にあったのは大きな展示室と首長竜の全身骨格だった。
10mは超えているだろう。子供の頃思わず叫んでしまったことを思い出した。
「エラモサウルスだ。
子供の頃から気に入っていてここも偶に来る。」
天井からつりさげられるように展示されている首長竜を見上げる横に立つ河澄が静かに言う。
「似合わないだろ、俺と首長竜とか恐竜とか。」
「いや……。俺も子供の頃すごく好きだった。」
どこに連れて行かれるんだろうと思っていたけど、今見ても恐竜だとか化石だとかは少しだけワクワクした。
「なあ、河澄――」
話かけた言葉は最後まで紡げなかった。
横にいる河澄の方を向いた瞬間、河澄の顔が俺に近づいて、唇を食まれる。
煙草の濃い匂いがした。
河澄の唇は、思ったより柔らかくて、いや、柔らかいとかそういう話じゃなくて、状況がよく理解できなくて思わず一歩後ずさる。
唇を手で覆う。
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