第1章

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一年の初めの朝。元旦と呼ばれる特別な朝。  いつもだったら絶対に出来ない長い列が階段から入口の鳥居まで伸びて、鳥居の外にも続いている。  大晦日の夜から来ていた人もいたけどやっぱり朝の方が多いかなぁ。  夜はお隣さんのお寺に行っている人の方が多いし。除夜の鐘って108回も叩けるのちょっとわくわくするよね!! そう素直に言ったらお隣さんはしっぶい顔してたけど!  けれど、お隣さんほどではないにしろうちにも人は来るので徹夜である。  というかここから三日間くらい、例年寝られた記憶がない。 「ふわぁぁ……。それにしてもやっぱ徹夜はきっついなぁ。かきいれ時ではあるんだけどさ」  本殿近くの一番古い木に腰かけながら、ついついあくびを零してしまう。  いけないいけない、ちゃんと願いをきかなきゃ。お仕事お仕事。  ぺちんと自分の頬を軽くたたいて、私は人間たちの心に耳を傾け始めた。  『初詣』――それは日本に住む神にとって一大イベントだ。  一年の中で最も人が集い、神にとっての栄養である『想い』が納められる。  大きな神ほどたくさんの栄養がいるし、たくさんの栄養を摂れば力も大きくなる。そして力が大きくなれば、人の願いを叶える縁を結ぶ力も強くなるのだ。 え? 縁切りの神とかもいるじゃないって?……それはまぁ、確かにいるけども。 あっちはあっちでちょっと特殊なのよね。悪い縁を切るのが仕事っていうか。結んだ縁が変質してしまったり、呪いによって無理やり結ばれてしまった縁を切って、正常な運命に戻すっていう。  ちなみに、悪い縁を切るのにはすごく力がいるの。下手すると普通の縁結びより力を使うくらい。私たちみたいな普通の神が事務職&プチ営業職だとすると、あっちは戦闘職なのだ。  戦う縁切りの神。詳しくは私も知らない。悪い縁はおっかないからね!  私ごときが対応したら逆に存在を歪められてしまう。  何せ私は神でも、小さな小さな、それは小さな神なのだ。  人間がまだ少ない、神代の時代から存在はしていたけど、記憶が欠けちゃっている。  いや、存在が欠けているって言った方が正しいかな。記憶が無いものだから何があったのかは覚えていないけれど。  しかし、大昔から存在している神にしてはあり得ないほど小さく、弱く。
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