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確かに自動車にぶつかった筈なのに、衝撃はこなくて。俺は、宙を舞っていた。
眼下に、煉瓦造りの家の屋根が沢山見える。何だか中世っぽい。外国……?
でもすぐにその思いは打ち消された。ポツポツと小さく見える人影と比べると巨大な、ドラゴンが目に入ったから。
はは。少女漫画じゃなくて、異世界もののラノベだったか。落ちていく速度が、スローモーションのように感じられる。
集まった人々から、ざわめきと歓声が上がった。
「勇者様だ……!」
みんな口々に、そう言っていた。
やっぱり、チートだったりするのかな。ことここに至ってもまだ皮肉っぽくそう思っていたけれど、俯せの体勢で自由落下する俺は、急にドキリと鼓動をはね上げた。
俺の真下の魔方陣の傍らに、長い金髪に碧眼の、絶世の美少女が立っていた。世界を救うヒーローの俺を、大きな潤んだ瞳で見上げている。
や、やっぱ、どう考えてもこの子と恋に落ちるんだよな。ティアラを着けているから、お姫様かな。彼女居ない歴イコール年齢の俺は、俄然やる気になった。
こうなったら、彼女の為に、世界をかけて戦おうじゃないか。
近付けば近付くほど、美少女が薄布のような白いドレスに包まれた豊満な胸の前で、きゅっと両手を握り合わせるのが見えてきた。
やべぇ……鼻血出そ。
「勇者様……! わたくしたちをお助けください!」
姫(仮)が、悲壮で可憐な声を出す。ご丁寧に、アニメ声。
も、萌え~。そう思いながら、俺は応えた。
「姫! 俺が世界を救っ……」
――ゴッ!
何の音? ああ、俺が地面に叩き付けられた音か。
こうして俺は、死んだのだった。
END.
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