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姉さんが死んでから、最初の大安。
お狐様と姉さんの婚礼の儀が執り行われる日。
時刻は深夜二時。
人ならざる存在が、跋扈する時間。
私は神社へ続く山道、その木陰に潜んでいた。
緊張のせいなのか、それともこの一帯を覆う禍々しい気のせいなのか、
肌と頭の中がピリピリして、気持ち悪い。
早く来い。
お願いだ。
早く、早く来てくれ。
どうか、どうかこの気持ち悪さから早く私を解放してくれ。
何度目か分からないそんな思考と深呼吸をした、その直後だった。
シャン。
シャン。
シャン。
シャン。
今となっては細やかな音すら感じ取れるこの耳が、儀式染みた、規則正しい澄み切った鈴の音を捕らえた。
一瞬にして頭の中に血が回る。
クラクラとする視界の中、鈴の音がする方を見る。
私がいる所から、僅かに離れた所。
そこに、あまりにも常軌を逸した一団があった。
一団はゆっくり、ゆっくりと、石階段を昇って行き、
やがて、私の横を通り過ぎて行く。
狐の面を被っていて、顔は見えない。
けれど、その腰にはふさふさとした狐の尻尾が生えていて。
頭からは、狐の耳の様な物が生えていて。
着ているのは、巫女装束の様な儀式服。
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