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もし声も女性の様だったら、私はこれが本当に婚礼の儀なのか分からなくなっていたかもしれない。
「みんな、弓を降ろしてくれ。
これから婚礼の儀が執り行われるのに、この場を鮮血で染め上げる様な事があってはならないだろう?」
お狐様の言葉に、狐面達はすっと構えていた弓を降ろす。
「…リン。
婚礼の儀を滞らせる訳にはいかない。
滞らせてしまったら、君の身も危険になる。
…君の方から、説得してくれないかい?」
「分かりました。ハクコ様」
姉さんは列から外れ、私の方に近付き、狐面を取る。
その狐面の下にあった顔は、生前とは違って、顔にお狐様と似た、けれど赤い刺青を入れてはいたけれど、やっぱり姉さんの顔で。
…この異常な状況の中、微笑むその顔を見ただけで、涙が零れそうになって。
「姉さんッ!お狐様のお嫁さんになる必要なんて無いよッ!?
早く、早く帰ろうッ!?」
「…ミヒロ」
「早くッ!早くッ!」
「…帰れないよ」
「ッどうしてッ!?」
「…あたし、もう死んでるから」
…少しだけ、悲しそうな笑みを浮かべる、姉さんのその言葉に、
全身の血が、蒸発して無くなってしまう様な。
…分かって、いたんだ。
姉さんが、もう戻って来る事が出来ないぐらい。
…あれ。
どうして私は、何を願って、
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