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そのとき、ヴーン、と自動ドアが開いた。激しい雨音がジャズを打ち消し、仁礼さんが入ってきた。
「……何やってるの」
つかつか、仁礼さんは俺たちに近づく。いつもにこやかな表情が消えていてどこか圧を感じる。仁礼さんは片手でみーの腕を掴み俺から引き離し、閉じたままの大きな傘を振りかぶる。雫が宙を舞った。
「きゃあっ!!」
ばしん、という大きな音。そして、みーの大きな叫び。それらがジャズを打ち消し、無味にした。
目の前の光景が信じられなかった。男が女に暴力を振るう――あってはならないと教わってきたこと。それを現実として受け止めることができず、俺は固まってしまう。
「何してるの? 何でそんなに近いの? 店員同士の関係を越えてるよね? 信じてたのに、何で」
まくしたてるように。仁礼さんは喋った。
「ごめんなさい、違うの、正志がいきなり……」
「いいわけするな!」
バン、と再び大きな音が響く。それに、はっと自我をとりもどす。威嚇するように仁礼さんは傘で床を叩いた。仁礼さんを見上げたみーの表情は恐怖そのものだった。
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