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「仁礼さん」
俺の呼びかけに、仁礼さんのフォーカスがみーから外れる。真正面で捕えた仁礼さんは別人のようだった。ギン、と睨まれたその強さに、俺は少し怯んだ。
間違っていることを前にしたら正さなきゃいけない。いきなり殴るとか、男らしくない、男の風下にも置けない。尊敬していた人に、そんなことして欲しくない。幻滅したくない。
俺は勇気を持って仁礼さんに対峙する。
「やめてください、なんでそんなことするんですか。らしくないですよ」
「うるせぇな……人のモンに手ぇ出しといて偉そうにしてんじゃねえよ!」
ガッとシャツの襟首を掴まれる。拳が飛んでくるのを覚悟していたが、そんなことは無くてほっとする。いくらか理性は残ってるということなのか……何にせよ、一旦落ち着かせてちゃんと話し合ったほうがいい。
「とりあえず落ち着きましょう、小森さんも怖がってますし」
「そんなことないよ、平気。分かってる、私が悪いの」
みーは明るく取り繕うような声でそう言った。瞬間、仁礼さんの力が緩み俺は解放される。俺はそんな言葉がどうして出てくるのか分からなくてふらふら、思わずみーの方へ歩き出していた。
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