グッバイ・ワールド

11/15
前へ
/15ページ
次へ
「仁礼さん」  俺の呼びかけに、仁礼さんのフォーカスがみーから外れる。真正面で捕えた仁礼さんは別人のようだった。ギン、と睨まれたその強さに、俺は少し怯んだ。  間違っていることを前にしたら正さなきゃいけない。いきなり殴るとか、男らしくない、男の風下にも置けない。尊敬していた人に、そんなことして欲しくない。幻滅したくない。  俺は勇気を持って仁礼さんに対峙する。 「やめてください、なんでそんなことするんですか。らしくないですよ」 「うるせぇな……人のモンに手ぇ出しといて偉そうにしてんじゃねえよ!」  ガッとシャツの襟首を掴まれる。拳が飛んでくるのを覚悟していたが、そんなことは無くてほっとする。いくらか理性は残ってるということなのか……何にせよ、一旦落ち着かせてちゃんと話し合ったほうがいい。 「とりあえず落ち着きましょう、小森さんも怖がってますし」 「そんなことないよ、平気。分かってる、私が悪いの」  みーは明るく取り繕うような声でそう言った。瞬間、仁礼さんの力が緩み俺は解放される。俺はそんな言葉がどうして出てくるのか分からなくてふらふら、思わずみーの方へ歩き出していた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加