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「みー?」
俺は心配になって声を掛ける。
「ご、ごめん」
「や、別に謝ることなくない? てか、具合悪い? 顔色悪いぞ」
「やめて触らないで!」
ばちん、と手が弾かれた。突然の大きな声と彼女の勢いに圧されてしまう。
「……はは、なんだよ元気じゃん」
から笑いしてみせるが緊迫したままで空気は緩和されない。俺はじっくりみーを見た。なんだろう、俺の知ってたみーと様子が違う気がする。すれ違いで何ヵ月もシフトが一緒にならなかったし、就活準備もあってキャラ変したのかもしれないけど。それにしたっておかしいだろう。急に真顔で謝ったり、めちゃくちゃ怒ったり。別に責めたつもりなんてないのになんでそんな態度になるんだろう。もしかして、俺が悪い? 何か引っかかることが……もしかして嫌われてるとか思った?
「……ごめん、ちょっと不安定で。ほら、就活とかでさ」
意外にも、その空気を破ったのはみーのほうだった。へらっと笑って、そう言ってみせた。
「ならいいけど……あんまり思いつめるなよ?」
俺にはそう言うしかできない。それから思い出したように、どーぞ、とデミタスカップを差し出す。しかし彼女の反応は良いものではなかった。手を前に出し止める姿勢を見せる。
「ごめん、大丈夫だから」
「いやいや、サボりじゃないし、平気だって。いつも他人のもテイスティングしてるっしょ?」
「いいの、今はいいの。ちょっと……ごめんなさい」
そう言って平謝りされてしまっては、もうどうすることもできない。やっぱり変だ、そう思いながら両手に持っていたカップを一つ置き遠慮なくテイスティングする。出る前に仁礼さんがしっかり調整してくれたおかげで、同じ加減で落としても変な苦味なんかは無く美味い。クオリティを保てていて、ちゃんとお客様に出せる味だ。
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