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仁礼さんはこの店で一番の腕前をもったバリスタで、自慢の店長だ。この店に配属になってまだ一年と少しだけれど仁礼さんのファンは多く、わざわざ前店舗から鞍替えして通ってる人までいる。ちょっとの味に敏感なカフェマニアは分かるけど、そうでない、若い女性までも。
うちの売りはエスプレッソだから、らしくないマニアが来てもおかしくはないんだけど、そういう人種とは明らかに違う。確実に仁礼さん狙いの女性が数人いる。
でも別に非難も侮蔑もしない。お客様はそれだけでありがたい存在だし、きっかけがどうであれ、コーヒーやエスプレッソに興味を持ってくれたら嬉しいことだし。
とにかく、そういう人も、そうでない人も、ちゃんと仁礼さんのいるタイミングを狙って一杯飲みに来る。俺たちじゃ、ダメ。そして笑顔で満足そうに去っていく。仁礼さんはそんなふうに人を集め満足させることができる、会社にとって宝石のような貴重な人材だ。
そうやって客がつくのは仁礼さんの顔の良さだけでなく、人柄が大きいだろう。お客様は勿論差別せず、店員は学生も専業も、年齢性別分け隔てなく平等に接し、親身に指導する。当たり前のことだけどそれができる人って少ない。俺は仁礼さんの悪い噂を聞いたことがない。イケメンで腕が良くて丁寧で優しくて専門知識もあり話題も豊富。出てくるのは褒め言葉ばかり。こんなの男の俺でも好きになってしまう。だからみーも……。
俺はみーの方を見た。気まずいからか、カウンターを出て物販の陳列棚の方に移動していた。
仁礼さんとの初顔合わせの瞬間。みーは仁礼さんに恋に落ちた。
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