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「大丈夫ですか」
「ああ、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
あんたが謝ることはないと、心のなかで呟いた。
最近この人は、よく体調を崩す。俺にはわかる。この人が弱っていることが。力が無くなってきていることが。
それでも、この人は身を削る。少ない力を、願いに来る人のために。俺には理解の出来ないことだ。
「いい加減に、もう力を使うのはやめたらどうです。大きく何かを変えてやることなんて出来ないでしょう。あんたの力がもたらす幸福にさえ、気付かない奴らです」
こぼれ落ちた俺の本音に、しかしその人は憤ることもなく、優しい目で俺を見る。
「いいんだよ。皆の幸せが、私の幸せさ。それにね、ありがとうと言ってくれる者もいるんだよ。それがなんと嬉しいことか。人とは、愛しい生き物さ」
そう言ってあんたは微笑んだ。桜の花が、咲くより美しく、散るより儚く。
その笑顔に、俺はそれ以上、何も言えなかった。
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