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「大丈夫……ですか」
答えのわかりきった問いかけ。
「ごめんね、心配かけて」
あんたの、優しさ。
もう、無理だな。認めたくない事実だけど、もう限界だ。
この人は、直に消えてしまうだろう。
横たわるその体は、時折透けてしまっている。
そして俺には、やっぱりどうすることも出来ない。
「逝ってしまうんですか」
「そう、だね。もう私には、加護を授ける力もないようだ」
使いすぎてしまったんだ。与えられることもないのに。与えてばっかりで。
「ごめんね。結局君には、何もしてあげられなかったね」
そんなことない。俺は力なんかいらない。神格だって必要ない。
あの日、あんたが助けてくれただけで。側においてくれただけで。俺は、充分幸せで。
けど、あんたは消えてしまう。ああ、そんなの嫌だ。
そう思ったらいつの間にか、自然と口が動いていた。
「神様……」
あんたが、目を丸くするのがわかった。止めようと思ったのに、止まらなかった。
「神様、お願いだよ。消えないでくれ、逝かないでくれ……! 俺の願いは、それだけなんだよっ……」
真っ白なあんたの姿が、歪んでいく。
言葉と一緒に、ぽろぽろとこぼれる雫のせいだ。
「ああ、困ったな。君からの、初めてのお願いなのに、聞いてあげられない」
そう言ったあんたの目からも、綺麗な玉がこぼれ落ちて――
「ねえ、君。私の願いを聞いておくれ。また、君に会いに来るから。絶対に会いに来るから。その時は、君の願いを叶えるから。……だからそれまで、どうかここを、ここの人達を、よろしく頼んだよ」
わかった。それがあんたの願いなら。最後にあんたの役に立てるなら。俺は全力で、ここを護ろう。
最早言葉にならない思いの代わりに、ぶんぶんと縦に頭を振る。
そんな俺の姿を見て、あんたはやっぱり優しく微笑んで。
『ありがとう』
そう言って、あんたは消えた。
淡い、光の粒となって。
俺の手を、すり抜けていった――
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