負のスパイラル

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負のスパイラル

 それは或る晴れた夜の出来事。  私は10年以上前に2年間務めていた某食品会社の屋上から飛び降り自殺を図った。そして現在、目の前には私の死体が転がっている。目の前、というのは言葉の通り。気がついたら意識だけが身体からくり抜かれたかのように、いつもと変わらない視線の高さから自分の死体を見下ろしていたのだ。これが世に言う幽体離脱というやつだろうか。  それにしても、と自分の抜け殻を見つめる。 見れば見るほど情けない姿だ。白目を剥いて、口から血を吐き出して地面に伏せている。  でもそれを見て自分の死を実感した。あぁようやく死ねたんだ。  これまでの人生、振り返ってみると改めて何も無かったなと思う。男として生を授かりごく平凡な家庭て育ってきた。小学生から高校までずっと成績も中の中。決して運動もできるわけでなくクレープ生地のように薄っぺらい人間関係の中で空気のように生きてきた。 でもそんな生活に後悔はしていない。ただ一つ、彼女ができなかったこと以外は。  問題は高校を卒業してからだ。親に進学を反対され就職した工場。そこは地獄だった。夏場になると室内温度が50度を超えるような場所での肉体労働。3桁の時間外労働は当たり前、残業手当も殆どカットされた。更に上司からはじゃれ合いという名のもとに蹴ったり、殴られたり、ラリアットを通りすがりに食らったり、今思えばパワハラのようなこともされた。いや、ような事でもないか。  そんな環境の中だから、というのは言い訳にしかならないが自分は度々ミスを犯し激しく叱責された。 ミスをしたのだから怒られるのは当たり前のことだし、仕方ないことだ。  ただミスをしてなくても何かしらで叱責される。そして時には上司のミスですら自分の責任にすり替えられ叱責される日々は流石に堪えた。当時、高校を卒業したばっかりで世間知らずの自分はある日、その理不尽に耐えられなくなり自分じゃない、自分はやってないとアピールするようになるも、そのSOSが自分の立場を余計に苦しくさせる。社内における自分への風当たりは日に日に強さを増していき次第により酷い苛めへと変わっていった。学校でよく発生している苛めとメカニズムは同じだ。
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