最後に見たもの

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 まっさきに目に飛び込んできたものは、女の生首だった気がする。赤と黒、所々の桃色に私は絶叫して、なにかに押しつぶされた。  そして、今の私が出来上がった。  頭部と胴体が離れ、片足は骨がむき出しだ。幸い、痛みはない。  頭は感覚の通ってない腕が大事に『あるもの』と一緒に抱えてくれている。  奇妙な出で立ちであることは自覚している。そして、今私がいるこの場も非常に奇妙な場所であふ。  隣を歩く彼女の腕はぐちゃぐちゃに潰れているし、前方を歩くサラリーマンは頭の半分がかけており、突っ込んだままのイヤホンの片割れが内線をむき出しにして揺れている。  どこへ向かっているのだろう。  ふいにそう思ってしまった。  生憎、私の整体は不運にもちぎれており、音は出せども、形を成す口が器官から離れている。  遠くでよく聞いた音が聞こえた気がした。もう音を感知しないはずの耳はそれを聞くと脳へ刺激を送り、繋がってないはずの体へ命令を出した。  「終点、終点でございます。おノリの方は、ご乗車ください」  私はこれが電車だと気づく。  習慣とは恐ろしいもので、私は通学のように、さも当然のように席へ座り、発車を待った。  そして『暇潰しにスマートフォンを見よう』などと馬鹿なことを考えるのである。  何せここは皆様おわかりだろう死後の世界。電波など繋がってるはずもなく、壊れてしまったのか電源さえ入らない。  画面が割れ、形の歪んだスマートフォンが私の顔に向けられる。  そこでぎょっとした。  そこで全て合点がいったのだ。  私はいつものように電車へ乗ろうと足を運んだ駅で、後ろから線路へ押し出された。  勿論、注意していれば落ちるはずのないのだが、私は線路へ落ちていった。  周囲の人間は皆、自身のスマートフォンへ視線を向けており、当然のごとく、私も買ったばかりであった新品のそれが割れてしまうのではと命そっちのけでその画面を見ていた。  そこで衝撃が走り、世界が三百六十度、ありとあらゆる方向へ回転したのである。  スマートフォンさえ見てなければ、周囲の人々も私自身も、自分を助けられたのか。  そう思いながら私はスマートフォンのボタンを押した。  画面は当然、暗いまま、最後に見た女の、いや、自分の生首を写すだけだった。
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