一、やるならば、徹底的に

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一、やるならば、徹底的に

 私が神様なんだと、実はみんな知らない。立岡も、三橋君も、杏も、千佳だって、知らない。  ベッドを買うとき、わざわざ浅いものを選んだのは、夜中に家を抜け出すためだ。私の部屋もそうだけど、廊下も階段も家中いたるところにカーペットを敷きたいと言いだしたのも私だ。そうすることで、きしみ音が響きにくくなる。  午前零時半のアラームが鳴る。正確にはただのバイブレーダ。短い振動一つ。私はすぐに止めて慎重に躰を起こした。両親も兄も、皆寝静まっている。  最初の頃は凄く緊張した。だけど、慣れれば音楽を聴きながらだって出来るようになる。絶対に物音を立てないよう注意して、あらかじめ用意していた服に着替える(もちろん、ベッドの中に隠している。万が一ママに見つかったら、言い訳を考える方が面倒だ)。服は出来るだけ滑らかな生地で、簡単に着替えられるものがいい。ワンピースも悪くないけれど、やっぱりジャージがベストだ。帽子でもかぶって、小さなライト一つ点ければ『ただランニングをしている人』に見えるし、補導される心配も無い。  ジャージに着替えて軽くメイクをする。ファンデーションはあまり使わない。若いうちに使うと逆に肌に悪いって言うから。ただ、パウダーはかけておく。アイラインは落とすときに苦労するからシャドウだけ塗って、眉を整える。マットカラーの口紅って憧れるけど、私には似合わない。少し光沢のあるブラッドオレンジカラーのリップを塗る。おしまい。ここまでは五分も掛からない。  電気のスイッチを切るときも慎重だ。力を込めてゆっくりと消す。間接照明でもあれば良いけど、あいにく私の部屋にはない。今度買おうかな。  スリッパは部屋に放置。これって、本当に大事。普段の癖で履いて下りちゃうと、物音を立てる原因にもなるし、戻るときに玄関に置き忘れたりでもしたら両親にバレるきっかけになりかねない。  靴を手に持って、靴下のまま玄関を出る。玄関の扉を閉める。ここが一番緊張する瞬間だ。人って本能的に玄関の音に敏感だと思う。私の場合、幸いなのがパパのいびきがうるさいこと。あんなのを隣にしてママは良く平気で眠れるなと感心しちゃうくらい。ただ、そのせいかママは音に敏感なんだよね。眠りが浅いのかな。だから、油断すると起こしてしまう危険性がある。慎重に力を込めて、鍵を掛けた。
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