美しき魔王の愛しき少女

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 今からすでに半年も前。ラミの家族に会いに行ったあの日、ウートの顔を見て固まってしまったラミの家族に型通りの挨拶を終えた後、彼女を自らの妻に望んでいると彼らに伝えた。同性だからか、いち早くウートの言葉を理解したらしいラミの父から言われたのは、『どういうことだ?』という、疑問の声だった。 『その姿……、君は、魔物だろう? どうして人間のラミを……。確かに先日の騒動で聖域の壁が割れたというし、魔物の世界側の意向もあって、魔物の世界と行き来が出来るようになるという話はあるが……。結婚を望むにしても、出会ってそれほど経っていないだろう。あまりに急すぎないか?』  冷静に問われた言葉は、すでに予想出来ていたもの。ラミには、自分が魔王であることは伝えないで欲しいと言っていたから、彼らがそう思うのも無理はないと思った。聖域の壁を越えられるのは、魔王の一族だけ。それ以外の魔物が人間と言葉を交わすことが出来るようになったのは、聖域の壁が割れ、魔物の世界と人間の世界の行き来が可能になってからのことなのだから。時間にして、二月ないのである。それなのに、魔物である自分が人間である彼女を妻にと望むなど、急すぎると思われても仕方なかった。 『もしかしたら、ラミが白の魔法使いだから、妻にと望んでいるのかな? それならば、人間の世界には他にもたくさんの魔法使いがいる。もう少し人間の事を知った上で、選んだ方が良いと思うんだが……』  告げられた言葉は、ラミとその家族が過ごしたこの五年間を思えば、仕方がない物だと思った。ラミは白の魔法使いとして、王の命として、捕らわれたも同然に国王に仕えていたのだから。白の魔法の価値を理解している者が、彼女を望むからこその父の心配なのだろうと、ウートもまた理解できた。  その上で、ウートは静かに首を横に振った。『私は、彼女以外を妻に望む気はありません』と、真っ直ぐにラミの父親を、彼女の家族を見ながら言った。 『彼女と出会ったのは、今から十五年も前の事です。彼女がまだ白の魔法を使いこなせるようになる前から、彼女のことを知っている。確かに、彼女は出会ったその日に、私の翼を治してくれた。誰にも治すことの出来なかった私の翼を。彼女がいるからこそ、今の私がいる。それは、間違うことない真実です。けれど、白の魔法使いだから彼女を望んでいるんじゃない。白の魔法は、あくまで彼女の一部でしかないのだから』  ウートは言い、傍らに立ち、こちらを見上げるラミの方を見て、その目許を和ませる。
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