魔王の日々

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 はっと、目を開けた。周囲を見れば、もう随分と暗くなりつつある。どうやら思ったよりも長いこと眠ってしまっていたらしい。  いくら休みだとはいえ、遅くなってしまった。  思い、ウートはテーブルの上に置いていたペンを握った。傍にある紙に、すらすらと文字を書きつけていく。  いつ、彼女が訪れても、擦れ違いになってしまわないように。そう、願って。 「……五年、か」  ぼそりと呟く言葉は、溜息と共に吐き出された。  もう、五年になるのだ。自分が魔王となり、そして。  彼女が、この場所を訪れなくなってから。 「愛想をつかされたのならば、仕方がない……」  心は移ろうものだ。もしそうならば、諦めるしかないのだと思う。そう簡単に諦められるわけもないと分かってはいても、何とか努力をしようと思うのだが。  彼女は、ラミは、突然この場所に来ることをやめたのだ。  そして、それがとても、彼女らしくないのも事実だった。  ……彼女は、元気にしているだろうか。  ラミがこの場所を訪れなくなって、ウートの胸を騒がせるのは、その一点。元気にしているだろうか。病気になったりしていないだろうか。  事件や事故に、巻き込まれていないだろうか。  ……やっと、世界を繋ぐ手段が見つかったと言うのに……。  それを伝える間もなく、彼女は姿を消してしまって。自分は壁に阻まれて、彼女の様子すら見に行けなくて。  これほどまでにもどかしい気持ちになったのは、初めてだった。  ラミの村は見える。翼で飛べばすぐの距離にある。それなのに。  絶対に越えられない壁が、そこにはあって。  どうしようもない苦しさを抱えたまま、ウートは月に一度、この場所を訪れていた。一度も、欠かすことなく。  ……一度で良い。一度で良いから、無事な姿を、見たい。  あの白く儚い姿を。美しく笑う姿を。一目で良いから。  まだ、彼女を諦めるつもりなど、少しもないから。だから。  喉の奥に苦く残る想いを、目の端を熱くさせる想いを、ゆっくりと目を閉じ、噛み殺して。  ウートは椅子から立ち上がった。  紙に書きつけたのは、次に自分が訪れるであろう日付。そしてその横に添えるのは、『愛している』という簡素な一言。それだけで、十分だった。  彼女が見てくれるなら、それだけで。  ……いつまでも、待っている。だから。  無事でいてくれと胸の奥で願いを込めて、ウートは踵を返した。
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