魔王の日々

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「お、丁度良かった。おかえり、ウート様」  ソス山脈からヴァルピュリスの背に乗って飛び立ち、魔王城の中庭に降り立ったウートは、聞こえて来た声にそちらを振り返る。  数日ぶりに見たフィリスは、昔から変わらぬ軽い調子でひらりと手を上げていた。「俺もさっき戻って来たとこですよ」と言いながら、彼は歩み寄って来る。  「そうか」と頷きながら、ウートはヴァルピュリスの頭を一撫でしてやる。ヴァルピュリスは気持ち良さそうに目を細めていた。 「思ったよりも早かったな。冬に向けて、問題はなさそうだったか?」  フィリスに頼んでいた事柄を頭に浮かべながら、そう訊ねかける。彼は笑って頷きながら、「大丈夫そうでしたよ」と呟いた。 「冬の備蓄も必要なだけあるそうです。まあ用心のため、少量ですが南の方から食料を移動させるよう手配しておきました。追いはぎなどの確認もしてきましたけど、今ではほとんど出ないとか。一昨年ウート様が考案した、軍隊の者がついて行う犯罪者向けの土木事業も成功したということですかね」  「寮もあるから、冬は希望者まで出てくるとか聞いてますよ」と言うフィリスは、どこか得意げに見えた。事業の監修に、彼も携わっていたのだから当然とも言えよう。  ウートはこくりと頷き、「それなら良かった」と応えた。 「ただ罰するだけでは更生など見込めないからな。屈強な軍隊の者に囲まれていれば、嫌でも作業をするしかなくなるだろう。それに追いはぎなどの罪を犯す者は、ほとんどが仕事に有りつけない者だと聞いている。そういった者に仕事を与えるのもまた大事なことだ」  「食うに困れば、誰だって罪を犯してでも食料に有りつこうとするだろうからな」と、ウートは静かに続けた。もちろん、罪の重さを測ってからの処置ではあるのだが。魔物と言う種族上、加害者も被害者もそれなりに強く、命を奪うような事件は不思議なほどに少ないのがこの世界なのである。  もっとも、強さゆえに王と呼ばれる魔王の一族だけは、例外ではあったが。 「そういえば塩湖はどうだ。規定の量の塩は冬までに運べそうか」  ふと思い出してウートはフィリスにそう訊ねる。フィリスはこくりとまた一つ頷き、「それも問題なく」と応えた。 「算出した量をきっちりと、今月中には城下の方へと運び込むとのことでした。塩湖までの道は冬になれば閉ざされる。その前には確実に間に合う、と」
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