魔王の日々

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 「塩湖の見張りの者も手配しておきましたのでご安心を」と、フィリスは続けた。  この魔物の世界で、塩を得ることが出来るのはキリバチ塩湖のみであった。ニース大陸が火山から大陸へとその姿を変える際に出来たと言われている。大陸の外側に広がる海と言う物の塩水が流れ込んだのだという話ではあるが、大昔の話のため詳しいことは分からなかった。  キリバチ塩湖自体は冬になっても凍ることはないと言う。水に塩が混ざっているからかどうかは知らないが、今までに一度も凍ったことはないらしい。だから冬であっても安定して塩の供給は可能なのだが、そこまでの道のりが雪に埋まってしまうのである。そのため、毎年この時期になると冬の分の塩の備蓄を確認する必要があったのだ。  だがこの塩湖の正確な位置を知るのは、魔王の臣下の極一部の者と、その塩を採ることを生業とする、塩湖から少し離れた位置にある村の者だけ。塩は魔物が生きていく上でも絶対に必要となるため、売買を魔王城が一括して管理しているからだ。下手に信用の出来ない者にその位置を知られて、横流しなどされては困るのである。  現在この城の中でその位置を知るのは、ウートとフィリスの他にはいない。だが近頃はフィリスに頼む仕事も増えており、せめてもう一人か二人はその所在地を知らせねばならないとも考えていた。  フィリスは一応、自分の護衛という立場なのだがなと、ウートは小さく笑った。 「それだけ聞ければ問題ないな。見張りの者が優に冬を越せるだけの備蓄も、お前のことだから確認済みだろう。各村の役人たちは何か言っていなかったか?」  そこにずっといる者たちだ。フィリスがこの短期間で見て回った以上のことにも気づくことが出来るだろうから。  フィリスはくすりと笑うと、「いーえ。何も」と言った。 「ただ、ウート様がまだ独り身であることに関して、心配そうに訊ねてきましたよ。エヘカトル様とご相談の上とは言え、まず先に北の地へと水路を通し、道を整備したのはウート様の功績だ。北の地の者は、ウート様に絶対の信頼を寄せているようですからね」  「過労で倒れそうなあなたを支えてくれる誰かを、求めているのでしょう」と、フィリスは続ける。  ウートは軽く息を吐いた。その手の話は、魔王城の臣下の者達からも、永延と聞かされているためである。
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