再会

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 美しいひとだと、ただ純粋にそう思った。  約束の時間よりもまだ一時間は早い時刻。ラミはアブノバとクナール、そしてもう一人の護衛ということで急遽加わった兵士の青年、ガルインと共に、聖域の、魔物の世界側の壁に向かった。報告に来た兵によれば、約束の場所、ソス山脈の最も高い頂に、数人の人影が現れたという。しかしその人影がいるのは壁の向こう側、すなわち魔物の世界で。よくよく見てみれば、その三人はただの人間にはない特徴がいくつもあったらしい。  一人は、美しい鳥の翼。一人は顔に張り付いた鱗。そしてもう一人は、羊のように巻いた角と、蝙蝠のような大きな黒い翼。  三人の魔物は特にこちらを意識する様子もなく、なにやら談笑していたという。 「五つの国の、これだけの数の兵士と魔法使いを前にして、談笑か。……相手にならんとでも言いたいのか?」  先を行くアブノバがそう呟くのが聞こえた。誰もそれに応えることなく、四人はもくもくと野営地となっている小屋から頂の方へと足を進めて。目的の場所へと辿り着いた。  アブノバを見、慌てて敬礼しようとする兵たちを制して、その後列へと近付いて行く。向こうからはおそらく、魔法使いが四人歩み寄ったようにしか見えないだろう。兵たちの肩越しに、四人はその魔物達に視線を向ける。  「ほぉ」と感心したように呟いたのは、その先頭にいたアブノバであった。 「力の強い魔物は美しいと本に書いてあるのを見たことがあるが、嘘ではなかったのだな」  ぼそりと呟かれた言葉。アブノバの言うことに、ここまで共感したのは初めてかもしれないと、ラミはひそかに思った。  鱗のある魔物は、年こそ経ているものの厳格で端正な顔立ちをしていた。鳥の翼のある魔物もまた端正な上に、どこか美しいとも思わせる容貌の持ち主である。そして。 「あの角のある魔物を見ろ。若い頃は、クナールと同等に美しい面持ちであったと見える。城の絵描きが見れば、死を覚悟してでも書きたいと言い出すだろうな」  くっと笑いながらアブノバはちらりとクナールの方へと視線をやる。クナールは困ったように笑っていた。 「お褒めの言葉として受け取らせて頂きます。……それにしても、あの姿。本当に人間とは違う。……魔物は、本当にいたのですね」  クナールがどこか感慨深げにそう呟いた。それに、アブノバが頷き、ラミの隣にいたガルインもまた、深く首を縦に振る。
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