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そんな三人の反応に、ラミは一人、はっとさせられた。自分は幼い頃からウートという身近な魔物がいたから当たり前だと思っていたけれど、人間の世界では、魔物が本当に存在するのかどうかも分からないと考えている人が多い。各国のロギの塔の魔法使いは、直接話しているためその存在を理解しているのが普通だが、ロギの塔は白の魔法使い以外は立ち入ることが出来ないため、王族でさえその存在を疑っている者もいるのだ。聖域には魔法使いと魔王の一族しか入れず、人間の村はソス山脈から少し離れた所にある場合が多いため、ソス山脈自体に人や魔法使いが訪れることも少ない。それゆえに、ある一種のおとぎ話だと思っている者も多いのが現状である。もしくは、二百年前はいたとしても、その後絶滅したのではないかと考える者もいる。
二百年の間、全く交流がないというのはそういうことなのである。
「……少なくとも、ある程度は理性があるように見えますね」
クナールがそうぼそりと呟いた。そこにいる三人には、明らかに人とは違う特徴があるとはいえ、人間と同じように話し、笑っているように見える。向こう側からも、こちらは見えているはずだというのに。
アブノバがクナールの言葉に頷き、「そうだな」と応えた。
「ああしてたった三人で我々の前に現れたのには、何らかの狙いがあるのは間違いないからな。それに、……気付いたか、クナール」
アブノバはそう静かにクナールに訊ねかける。それにクナールもまた、頷き返していて。彼らの視線の先には、三人のうち、一際美しい角と翼の生えた魔物の姿。
ラミもまた、彼の言いたいことが分かった気がした。
「本で見たことがある。二百年前までの、王や、その王妃の姿。あの男は、その姿、そのものだ。……魔王、そのものだ」
美しいひとだと、ただ純粋にそう思った。それと同時に、頭に浮かんだのだ。視線の先にいるひとは、彼ととても良く似ていた。
きっとあのひとが、ウートのお父さん。
魔王、エヘカトル。
「どういうつもりなのでしょうか」と、クナールが訝しげな様子で呟いた。
「傍の二人が護衛の者だというのは分かりますが……。魔物の世界の王である者が、真っ先に姿を現すその意味が分かりません。おそらく他の兵たちも潜んでいるのでしょうが……。狙ってくれと言っているようなものではありませんか」
通常ならば、王とは最も護られるべき存在。
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