目の前にある現実

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 彼女が立っていた。  美しい白い髪を靡かせ、世界で最も強いとされる勇者の隣で、仲間であろう他の三人と共に、真っ直ぐに自分を見ていた。  彼らが倒すべき魔物の王である、自分を。 「待ち侘びたぞ。勇者よ」  ずっとずっと、この時を。  お前が、彼女を連れてここを訪れるこの時を。 「魔王め。お前を倒し、俺はこの世界の平穏を守ってみせる!」  声を上げ、勇者と思しき青年は腰に佩いた剣を抜く。魔法さえも切り裂くと言われる、人間の世界において秘宝とされる剣、エオスター。鈍く藍色に輝くすらりとした剣の先が、真っ直ぐにこちらに向けられた。  しばしの沈黙。  先に動いたのは、果たして誰だったか。  魔物の世界の中心に位置する魔王城の広間は、一瞬にして、濃い霧に包まれた。
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