事の起こり

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 魔王城に戻ったウートは、自室に戻るよりも先に書物保管庫へと足を運んでいた。ラミの言っていたことが、どうしても気になっていたから。  ……古い本は、本という形がない時代の物。それを考えれば確かに……。  思い、本を数冊、持って来ていた広い布の上に置く。そしてこれもまた手にしていたランプに火を灯した。プリズムグラスの光は上部から当たるため、奥の壁は本棚の影になって見えなかったから。 「……!これは……」  ランプの淡い光に照らされた、本棚の奥の壁。そこには、ラミが言っていたように、何か文字が刻んであった。目を凝らし、それを読み上げる。 「三代目魔王の治世における変革……」  この書物保管庫に置かれた書物は、一様にしてここ二百年程度の歴史や魔物の世界についてのことしか書かれていなかった。魔物の世界と人間の世界が隔たれた、その後の事しか。植生や文化など、二百年と言えどかなりの変化があるためにそれはこの膨大な冊数に及んでいるわけだけれど。  それでも、その二百年前のことでさえ、書かれていないことも多くあった。二百年前と言えば、魔物の世界と人間の世界の交流が途絶えたのもその辺りだったはず。だというのに、そういった記述はどの書物にも載っていなかったのだ。 「三代目魔王といえば、父上の代から十二代は遡る。この日付からすると……四百年以上前の話だな」  文字列を邪魔する書物を布の上に置きながら、ウートはまず、書き始めの文章を探した。今ここに出てきている文章が三代目魔王の治世だというならば、二代目、そして初代の文章もあるはずだと、そう思ったから。  何冊も何冊も、戻す場所が分かるように丁寧に取り除いていく。見えて来たのは、二代目魔王という言葉と、その日付。そして。 「初代、魔王……オフィエルの治世」  書かれた日付は、五百年近く前の物。初代魔王、オフィエル。さすがにその名を知らないわけもなくて。  ウートは書物を取り除く作業を中断し、その文章に目を通し始めた。  初代魔王、オフィエル。彼は、王と呼ばれる存在ではなかった。 「珍しい魔法の使い手であり、その穏やかな気性と確かな知識から、大陸の全ての者達に頼られる賢者の様な存在だった……?」  魔法の、使い手?  どういうことだと、ウートは軽く眉根を寄せる。それに、大陸の全ての者達、というのもまた、どういうことだろう。
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